熱蒼
#幻水TK #主人公×ロベルト #主人公=シグ #R18
アスアドがベランダに出ていくと、耳をそばだてていたシグは静かに起き出し、隣のベッドを伺った。
「……ひめさま……」
かちゃん、というドアの音にロベルトも気付いたようだ。まだ眠そうに目を擦り、ゆるゆると上体を起こしてくる。
「ひめさま……?」
「ベランダ」
「ん……」
言われて窓の外をぼんやりと見る。窓からカーテン越しに人影を確認すると、ロベルトはまた布団に潜り込んだ。
寝ぼけてんなあ、とシグはひっそり笑う。普段はツンツンしているだけに、こうして素直になるときがシグにとってはたまらないのだ。
「ロベルト?」
隣のベッドに乗り移り、潜めた声で呼びかける。寝ぼけ眼のロベルトはぼんやりとシグの額の辺りを眺めた。普段なら三角形の頭帯飾りがある辺りだ。
シグは口の両端を悪戯っぽく釣り上げ、低く囁いた。
「な、キスしてくれよ」
「んー……」
「お願い」
「……ったく、しょうがないやつだな……」
ごにょごにょと続けて何か呟いたかと思うと、ロベルトは灰色の頭に手を伸ばし、引き寄せた。少し乱暴なくちづけ。ちゅっと小さな音が立ち、唇はすぐに離れてしまったが、それでもシグの頬は嬉しそうに緩んだ。
「……かっわいい~~……!!」
「んっ、む」
今度はシグの方から唇を奪った。合間に、かわいい、かわいいと繰り返す。何度も何度も、数をいくら重ねても足りない。唇だけでなく、頬に、瞼に、額にもくちづけて、さらりと流れる髪に指を差し込んだ。
「シグ」
はっきりと名を呼ばれて顔を上げる。蒼の瞳が、今はきつくシグを睨んでいた。
「あ、起きたのか」
「起きたのか、じゃない。もうやめろ」
「そう怒るなって」
首の辺りを撫でようとしたシグの手をうるさそうに払いのけ、ロベルトは相手に背を向けて丸くなった。体は昼間に消耗した分を回復しようとしている。その本能に抗う意思はない。
「えー、寝んの?」
「ほっといてくれ……」
「なんだよ、ちょっとノってきてたくせに」
「………」
「おーい」
ロベルトはそれきり反応しなくなった。背中をつついても髪を引っ張っても、無理矢理同じ布団に潜り込んでも全く取り合わない。それなら、とシグは身を乗り出し、亜麻色の髪の間から覗く耳に甘く噛み付いた。
「ばッ──」
つい大声を上げようとした口を素早く押さえ、シグは静かに、と囁いた。
「聞こえちまうぞ」
「だったら……ッ!」
背後から薄着の中に手を入れられ、ロベルトは焦った。
まさか、する気なのか。今。ここで。
「や、め……!」
肌の上を這い回る手を捕まえようともがいても、するりと逃げてゆく。その隙を突かれて耳の下辺りを吸われ、小さく息を呑む。
「シグ……っ」
「んー?」
シグは答えず、耳を食んだ。舌先でくすぐるように舐めるとロベルトの肩が揺れ、抵抗する手が止まる。くっくっと喉の奥で笑う音がした。
「耳いじられんの好きだもんな、ロベルトは」
「馬鹿、何言ってん……ッ!?」
ぬる、と耳に生温いものが滑り込んで、ぞくりと背筋が痺れた。手では胸や脇腹をいやらしく摩りながら、舌で縁の形を丁寧になぞり、その奥まで入り込もうとしてくる。ぴちゃ、ぴちゃっ、と水音が頭の中に直接響くようで、気が狂いそうだ。
「やっ、めろ……! そんな、とこ……舐めるな……!」
「ふーん……」
震える声に意地悪くニヤッと笑い、シグはふうっと息を吹きかけた。
「ひぅ……っ!」
全身が粟立つような感覚と共に、甘く甲高い声が零れる。濡れた耳がひやりとして、反対に身体の奥底が、かあっと熱くなる。
「なんだよ、今の」
ニヤニヤといやらしくシグが笑っている。ロベルトは耳を押さえて相手を睨みつけた。恥ずかしさと情けなさで涙ぐむより前に、頭に血が上ってくる。
──いつもいつも、自分が上だからっていい気になりやがって!
ばさりと派手に布団を跳ね上げ、ロベルトは驚くシグの上に馬乗りになった。体格差は微々たるもので、いざ上になってしまえば相手の動きを封じるのは簡単なことだ。
「え、何? 今日はお前が上なの? まあ俺は全然いいんだけど、お前それ嫌なんじゃなかっ、もが」
シグの顔面に枕を押し付けて、ロベルトは一度深呼吸をした。腹の内はまだむかむかしているが、下でばたばたと暴れる手を押さえてしまうくらいの余裕はあった。
疲労も眠気もこのときだけは吹き飛んでいた。火を点けられてしまった身体がジリジリと焦がれている。
「おーい、くるしいぞこれ」
「見るな」
枕の下から不満の呻き声が上がる。しかし大人しくなった両手をロベルトは離し、シグの下衣を引きずり下ろした。
「なっ!?」
「見るなって言ってるだろ!」
跳ね起きかけたシグの頭を枕ごと押さえつけて戻し、自分と同じように熱を孕むそれを取り出してペろりと舐める。びくりとシグの身体が強張った。
「ちょっ、ろべ」
「頼むから黙っててくれ」
ロベルトはもう一度深呼吸をした。自分が何をしようとしているのか、それは敢えて考えない。やられっぱなしでは済まさない、それだけ分からせてやれればいいんだ、と自分に言い聞かせる。
手を添えて全体をくまなく舐め、時々キスをして、先から溢れる蜜を塗り込むように摩る。それは熱く脈打って手の中でぴくぴくと震えた。枕越しに荒い呼吸の音が聞こえている。
「ぅあ、やべ……、きもちい……」
シグが手探りに、くしゃりと亜麻色の髪を掴む。その感覚すら甘い刺激となって、ロベルトはきゅっと目を閉じた。
「……絶対、見るなよ」
強い語調でそう言って寝衣を下ろし、ロベルトは濡れて光る指を、そろりと自らの後孔へ伸ばした。
「ん……、ッ……はぁっ……」
おもむろに指を埋め込む。熱い息を吐き出し、不安定に揺らぎながら中を押し拡げてゆく。濡れた音はシグの手によって解されるときと同じ。しかしぞわりと不快な鳥肌が立った。
自分から、自分の手でこんなことを。自己嫌悪は少なからずある。だが正直なところそんなことはどうでもよかった。今だけはただ、欲しくて、欲しくて。徐々に治まっていく痛みと異物感は、震えるほど甘やかな痺れに越されていた。ひくりと奥底が疼く。
ロベルトは指を引き抜いて、猛る熱を入口に宛がった。これで良いのか悪いのかはわからない。頭より身体が急いて、それ以上待っていられなかった。
「んんッ……く……っ、ぅあ……!」
「うわ、ちょっと待てロベルトっ」
みち、と痛々しい音がした。苦しそうな声と共にロベルトはきつく目を閉じ、眉間に深い溝を刻む。しかしそれでも、シグが止めても止まらなかった。息を詰まらせ、上擦った声が響かないように口元を手で押さえて、着実に腰を落としていく。
「ったく、無茶すんなあ……」
腰を支えてやり、呆れ声でシグが言う。眦を拭われてロベルトが目を向けると、視線の先には優しい苦笑があった。蒼い瞳が苦痛から羞恥の色に変わる。
「あ……ばか、見るな……」
「嫌だね。もったいねえじゃん」
言い返そうと開いた唇からは、小さく甘い叫びが上がった。もうすべてが中に収まっている。ロベルトの肩は震え、大きく上下していた。
そっと上体を起こし、シグは相手を慈しむように抱きしめ、頭を撫でる。ふわりと身体が浮き上がるような気がして、ロベルトはびくっと体を揺らした。
「ん、きっつい、ロベルト」
幼子をあやすように優しく、それよりずっと甘やかに、ゆっくりとシグは亜麻色の髪を梳いてやった。少しずつ呼吸の感覚が長くなり、震えも治まってゆく。糸が切れたように力の抜けた身体を相手に預け、ロベルトは大きな溜息に乗せて言った。
「……ばか、ばかやろう」
「なんだよ、っと」
「ふあっ!」
素早く腰枕を滑り込ませ、器用にロベルトを組み敷いてシグは小さく笑った。
「うん、やっぱ俺はこっちの方がいいな」
「シグ……」
「大丈夫」
何が大丈夫なのかわからないが、胸の底がじわりと温かくなる。そうだ、こいつは、こういうところがあるから。ふやけた頭でそう思った。
「それに、お前もこの方が好きそうだし?」
そう言ってシグはまた、にやりと意地悪く笑う。ロベルトの眉根が寄っていく。前言撤回、と呟いた唇をシグが優しく塞いだ。
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月下美人(アスクロ)の裏で主ロベはこんなことしてたらいいなって
2011/06/18