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​茸鍋はじめました。

​#+C #天狼×十六夜 #薬師設定

 ある夕暮れ時のこと。十六夜は子供達を連れて、山での採取から戻ってきたところだった。各自手にした籠は皆、薬草や木の実でいっぱいだった。
 十六夜は集落のやや奥にぽつりと佇む薬師の庵まで子供達と歩いてゆく。誰が何を一番多く採ったか、の微笑ましい勝負に頬を緩め、見ると庵の戸の前で見知った人影が待ち構えていた。先頭の子供が駆け寄って声をかける。
「天狼何してんのー?」
「また十六夜に用事かよー」
 まーな、と答えるのが数歩離れた十六夜にも聞こえた。目が合うと天狼は、にっと笑ってみせた。
「そーゆー訳だからガキどもは先に中入ってな」
「ガキじゃねーよ!」
「あー悪い悪い。とにかく先生待ってっから」
 はーい、と元気良く返事をして殆どの子供は我先にと庵へ飛び込んでいく。十六夜の隣にぴったり付いていた一人の少女が十六夜の袖を引っ張った。
「あたし、十六夜の分も持っていってあげる!」
「あ、ありがとう。大丈夫?」
「大丈夫!」
 よいしょ、と大人の頭ほどの籠を受け取って抱え、少女も庵へ入っていった。中からは子供達の声に混じり、翁が呵々と笑う声も聞こえる。天狼は十六夜の手を引き、庵の側面へ回った。西を向いたこちらの壁には窓がない。
 薪の山の奥へ入り込み、天狼は十六夜と向かい合うように立った。
「おかえり、十六夜」
「ただいま。天狼はいつ戻ったの?」
「ついさっき」
 天狼はまた屈託なく笑う。今日は狩りに出ていたはずなのだが、疲弊している様子は微塵も見せない。西日を直に受けて眩しそうに目を細め、ふと天狼は首を傾げた。
「十六夜、背ェ縮んだ?」
 言いながら十六夜の頭に手を乗せ、ぽふぽふと軽く叩く。心なしか天狼が覚えているより低い位置にある気がした。
「そんなわけないだろ。天狼が伸びたんだよ」
「うおっマジで!」
「多分」
 天狼が嬉しそうにはしゃぐ。十六夜も、天狼の目線が少しばかり高くなったような気はしたのだ。おそらく差はもう少し拡がるだろうとも思う。不思議な気分だった。悔しいわけでも寂しいわけでもなく、天狼がそれを『十六夜の背が縮んだ』と捉えたことが可笑しかった。
「なーに笑ってんだよ。おまえ最近そればっか!」
「だって……」
 そこで堪えきれずに十六夜は吹き出してしまった。赤い陽射しを受ける天狼の顔がたちまち歪んだと思うと、二つの手が十六夜の髪をめちゃくちゃに掻き回し始めた。
「こんにゃろ!」
「うわっ、ちょっ天狼!」
「うるせー、俺ちんに任せろ!」
「何をだよ! あっこら、髪……!」
 抵抗の手をすり抜けて髪留めの紐を奪うと、天狼は手を止めて満足げに鼻を鳴らす。対する十六夜は頭を揺らされたせいか、やや俯いた姿勢のまま呻くような声を上げた。
「いきなり何だよ……?」
「なんとなく」
「怒っていい?」
「やだなー。ごめん」
 悪びれる様子なく笑いながら天狼はぼさぼさに乱れた十六夜の髪に指を入れた。縺れをほどき、丁寧に梳く。太陽はもうほとんど沈んだらしい。薄暗い中、天狼は目を凝らして作業を終え、髪を撫で付けるついでに何度も十六夜の頭を撫でた。
「どうしたの?」
「なんとなく」
「君も最近そればっかりだよ」
 小さく声をあげて十六夜は笑った。楽しそうに、嬉しそうに。天狼は頭を撫でる手はそのままに、もう片方の手を十六夜の腰に回して抱き寄せた。
「天狼?」
「好きだ!」
「あはは、うん」
「十六夜は?」
「言わせるの?」
「聞きてーの」
 少し呆れたような色を笑いに混ぜ、しかし十六夜も天狼の背に腕を回す。寄り添う体温が少し上がった気がした。
「僕も、好きだよ」
「そっか。へへ」
 くすぐったそうな笑い声が二つ、密やかに響く。日は沈み、月はなく、庵から僅かに光が漏れ出すだけで辺りは真暗闇も同然だった。
「……天狼」
「んー?」
 十六夜がぽんぽんと背を叩くと天狼は腕を緩めて顔を上げ、首を傾げた。今の場所へ入った時とは逆に、十六夜が相手の手を引いて庵の扉の前まで導く。
「すぐ夕飯にするからさ、みんなと一緒に食べる?」
「マジで!」


「御馳走様。美味かったよ」
 木の椀を置いて新月が言うと、きゃー嬉しいー、と帥門が身をくねらせた。
 この二人は天狼と十六夜の関係を知っている。新月は天狼の挙動から十六夜との徒ならぬ仲を見抜いたし、帥門には──彼の性癖が集落の名物めいた知名度を誇るためか──天狼がたびたび相談を持ちかけるのだった。
 同じ秘密を抱える者同士、気も合えば話も弾む。天狼が十六夜を訪ねて行ったと見るや、お話ししましょう、と新月を誘うのはいつも帥門だった。
「今日のお鍋はね、十六夜に教えてもらった香草を入れてみたのよ」
「へえ。確かに不思議な香りがしたな…」
 帥門を『下手な女より女らしい』と最初に言ったのは誰だったか。随分的を射たものだと思いながら新月は熱い茶を啜った。
「十六夜といえば、天狼ちゃんはまたあっちに行ってるのね?」
「戻ってからずっとな」
「うふふ、よっぽど好きなのね」
 帥門も微笑んで湯呑を傾ける。彼に言わせると天狼と十六夜はとても良い組み合わせらしい。男の子同士なんて気にしないで契っちゃえばいいのに、と思わず零したこともあるほどだ。
「新月としてはどうなの? あの二人」
「どうも思わないさ。本人の好きにすればいい」
「あらやだ意外と冷たい。天狼ちゃん、あたしのとこにいっぱい相談しに来るのに」
「どうせくだらないことばかりだろう」
「くだらなくないわよぅ! カワイイじゃないの!」
「わかったわかった」
 本当に憤慨してみせる帥門を宥め、新月はまた茶を啜った。本当に相談したいのは十六夜の方だろうに、と心底同情しながら。

 

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十六夜を撫でてみたら嬉しそうに笑ったから、つい抱きしめてしまった。かわいい。(http://shindanmaker.com/158317

​2011/10/16

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