フロー・プラッチュ
#零の軌跡 #ロイド×ヨナ #R18
「………」
「えっと……」
ヨナは定位置からロイドを睨みつけている。何かを訴えているのは確かなのだがロイドがその何かを察するには情報が足りなかった。怒らせるようなことをしただろうかと記憶を探っても、それらしきものには思い当たらない。ロイドはいつも通り、地下の端末室へ来てヨナの手が空くのを待っていただけで、今日のところは特に問題発言もしていない。
真剣に考えているとヨナは席を立ち、ソファにいるロイドの前にずかずかと歩み寄った。
「キスしろ。今」
唐突すぎて何を言われたのか咄嗟に飲み込めなかった。数秒、無言の間が空き、不遜に見下ろす顔が真っ赤に染まったかと思うとヨナは素早く踵を返した。
「――いい! ボクは何も言わなかった!」
「待った、ごめん、ちゃんと聞こえた。あんまり珍しいからびっくりしたんだ」
元の位置へ戻りかけていたヨナはぴたりと止まった。背を向けたままで深呼吸してから、ロイドからほんの少し距離を置いて隣にちょこんと座る。表情は不自然に歪んだ照れ隠しのままだ。
「……早く」
瞼を閉じてヨナは呟く。目の前の椿事に感動すら覚えながらロイドはそっと肩を抱き、唇を重ねた。ヨナがその胸元にしがみつき、甘えるような手つきにどくりと鼓動が跳ねる。そうして一度だけ触れたロイドが離れようとするとヨナは相手の服を引っ張った。
「ケチ」
唇を尖らせて呟く切ない表情にロイドは声を出せなかった。ヨナは怒ったように眉根を寄せて肩に顔を埋めた。ジャケットを引っ張る右手は八つ当たりを始め、生白い肌は顔だけに留まらず耳まで赤く染まっている。
許しているのだ、と気付いてロイドは愛しげに微笑んだ。
「全く。いつにも増して生意気だぞ、ヨナ」
「いつにも増してってなんだよ……」
顔を上げさせ、両手で頬を包んで覗きこむとヨナはぎゅっと目を瞑ってしまう。自分の胸元からヨナの手を掬い上げ、指を絡めてロイドは堪え切れずにくすりと笑った。ヨナは物言いたげに一瞥したが、黙って再び目を閉じた。
だって、そういう気分なんだから仕方がない。
確かめるように触れ、受け入れるために開かれた唇の隙間にロイドが舌を差し込む。舌先同士が触れ合った瞬間、ぴりっと電流が走ったように背筋が痺れ、溢れた声は普段のヨナからは想像もつかない響きで色情を煽る。吸い絡めて誘い出すと、抱きしめた体から水音に合わせてぞくり、ぞくりと揺れが伝わった。
吐息が震えた。興奮している。体が熱い。
指を解き、服の中へ手を滑り込ませてロイドが素肌に触れるとヨナはおもむろに相手を押し退けた。また良くわからない理由で機嫌を損ねてしまったかとロイドは思わず苦笑したが、ヨナは不敵に笑って濡れた唇を拭った。
ロイドが決して良くはない予感を覚えるのとほぼ同時にヨナは手を伸ばし、指でなぞった先に潜むものが素直に強張った。
「っ、ヨナ!」
「はん、やっぱり」
ヨナは楽しそうに唇を歪めたまま、制止をかけるロイドの手を振り払ってベルトを外し、ズボンの前をくつろげた。それなりだと以前ヨナが評価したそれが熱を持って下着を持ち上げていた。
「前から思ってたけど、アンタ意外と変態だよな」
容赦ない指摘にロイドは呻く。誤魔化せない物的証拠を前にしては反論のしようもなかった。
「一応聞くけど、何するつもりなんだ……?」
「分かってんなら聞くなよ。……何。してほしくねーの?」
「いやその、正直に言えば嬉しいんだけど……っ」
布越しに握られたそれがまた強張る。ヨナが手をゆっくりと上下させ、それは急速に熱を増して形を成してゆく。
「こら、待てって! やっぱりだめだ、ヨナにそんなことは……」
「まだ言うか。たまにはボクにも好き勝手させろよな」
躊躇なく取り出して弾き、びくりと震えたそれに釣られてこくりと喉が鳴る。反り立ったそれを見慣れた、と言ってしまうのはヨナ自身どうかと思うのだが、最初に目にした時に比べれば動揺も抵抗もない。
「舐めていいんだろ?」
「……嫌じゃなければ」
渋々の返答とは裏腹にそれはヨナの指先に逐一反応している。ヨナは横から身を屈めた。頬にその熱を感じられる距離だ。
「ちゃんと教えろよな。初めてなんだから」
俺も初めてなんだけど、という控えめな抗議をヨナは無視した。思い切って唇で竿を挟み、裏側の筋に舌を這わせながら根元から先端へ上がってゆく。手探りの少しぎこちない動きにもロイドの口からは甘い声が上がり、先端に雫が滲んだ。ヨナは日頃の仕返しをしてやるような気分でキスを散らした。
ロイドはヨナから目を逸らせない罪悪感にも喘いでいた。他人に奉仕される未知の感覚だけでも頭が真っ白になりそうなのに、相手はまだ子供なのだ。ヨナの技量が予想以上であることも相まって、自分がこの背徳的な事実と光景に逆らえず昂揚していることを自覚していた。
「ぁ……ヨナっ……」
「うっわ、すご……」
先走る蜜を潤滑剤代わりに絡ませ、扱きながらヨナは雁首へ舌を這わせた。舌に纏わりつく味は形容しがたいが特にどうとも思わない。蜜を啜る卑猥な音がじわじわと聴覚を犯してゆく。
「ん……ちょっと……んくっ……コーフンしすぎっ」
「ヨナがいやらしいから……」
「ボクのせいにすんな」
ロイドはとっくに欲情しきっていた。思慮深いはずの鳶色の目が落ち着きをなくしてとろりとヨナを見つめている。ヨナは初めて彼を可愛いと思った。
荒く、間隔の短くなった呼吸と嗅覚を支配する淫靡な匂いに部屋ごと窒息しそうだ。ヨナは顔を上げ、掌で先端を撫で回しながら呼吸を整えた。
「ほら、教えろってば」
ヨナは小首を傾げて促す。完全に立場を逆転して気分が良いらしい。
「どうすりゃいいんだ?」
「……いや、やっぱりこのまま」
この口で、と小さな唇をなぞる。ヨナが思わず吐いたそれは愛のある溜息というものだろう。
「……ったく。強情な奴」
唇を湿してヨナは先端を口に含んだ。温かく濡れた粘膜がねっとりと覆い、柔らかに圧迫する。鳥肌立つほどの快感がロイドの全身を這い上がった。
「あっ、んッ……くぁッ……!」
「んむっ……ふぁっ、大人しくしろって」
びくつく腰を押さえつけ、ヨナはそれを咥え直した。溢れ続ける蜜のせいで軽く吸うだけでもじゅるりと派手な音がする。
「うぁっ、あっ、ヨナ……っ、それ……だめだ……ッ」
「ん、そんなに気持ちいいのか?」
ロイドはきつく目を閉じたまま懸命に頷いた。ヨナの頬が緩む。
「ふーん……」
「んぁっ、ちょっ……だめって……ヨナ!」
「いいって。ぶっかけられる方が面倒だし」
「そういう問題じゃな、ぁ、ッ」
遊ぶのをやめたヨナは実践経験のない知識を総動員してフル稼働させていた。はち切れんばかりになって脈打つそれは爆弾を思わせたが今更そんなことでは怯まなかった。ロイドの右手が縋るようにパーカーのフードを掴んだ。
「ヨナ……もう無理……」
掠れた懇願に小さく頷く。口の中でびくん、と大きく跳ねたそれは自らの吐き出すものに溶けてゆくようだった。
張り詰めていた糸が切れると視界は情けなく点滅した。ソファの背凭れに頭を乗せてロイドは呼吸が落ち着くのを待つ。無理やり嚥下したらしいヨナが顔を背けて咳き込んだ。
「ごめん、大丈夫か……?」
「だいじょぶ……っ」
ヨナはまた咳き込み、頷きながら比較的ましな方の手を振った。残滓が喉に引っかかるようで顔を顰め、炭酸の抜けかけたコーラを勢い任せに呷って先程より派手に咽せた。涙目でこれはない、とぼやく。水を買いに行かされるな、と手早く後始末を済ませてロイドは思った。
「ヨナ」
「何? あ、水買ってきてほしいんだけど」
「はいはい……じゃなくて」
他に何があるんだと言わんばかりにヨナは首を傾げた。有るはずのない慣れすら漂う自然な態度にロイドはしょっぱいものを感じてしまった。
「……そんな目で見るなよな。今ボク何か変なコト言ったか?」
「いや、ただ……とても初めてとは思えなかったから。どこで覚えるんだ、こんなこと」
「あ? 決まってんじゃん、そんなの」
ヨナはそこまで即答して不自然に口を噤む。今度はロイドが首を傾げた。膨らんだ白い頬がほんのりと赤くなっていた。
「……企業機密」
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フロー・プラッチュ
がんばって調べたとは意地でも言わない
2012/07/04