一人じゃ出来ない自由研究
#東亰ザナドゥ #リョウタ×コウ #R18
真夏が溢れていた。
開け放った窓の外は眩しく、ろくに街路樹もないのに彼方此方で蝉がぐわんぐわん鳴いていた。風のない昼下がりである。部屋の中央に置いた扇風機が低い音でかすかに唸り続けていた。かろうじて空気が流れても、息苦しいほど湿っぽい熱を和らげることに関しては一つも役に立っていなかった。
レースカーテン越しの日光はテーブルの中ほどまで来て、明らかに途中で放り出したノートの隅を照らした。その横にはシャープペンシルが所在なさげに寝転び、開き癖の甘い参考書は扇風機がそちらを向くたびに数頁はためいた。
汗に濡れた髪がコウの肌に貼りついていた。前髪が邪魔そうで、リョウタが指で掬おうとしたがうまくいかない。コウはタオルケットの端で新たに流れた汗ごと拭い、そうして現れた白い額にリョウタの唇が触れた。
「しょっぱ……」
続いて唇を触れ合わせた。ぬるいのと気だるいのとで気持ち良いのかどうか分からなくなってくる。塩気が好ましいのは体が失ったものの補給に必死だからだろうとコウは思った。ただ座っているのも怠く、段々とリョウタにしなだれかかっていった。
氷の解けきったグラスから汗が流れ落ちてゆく。
呼吸はゆっくりだが荒い。コウのシャツの裾にリョウタの手が入り、捲り上げた。逆らわず両腕を上げ、シャツが抜けると少し体が楽になった。貼りつくものが減って軽く感じる。
リョウタはまたキスをしてきた。コウはその頭を抱くように手を伸ばした。指が髪をかき分けて入っていった。しっとりと濡れた毛が指に絡む。この感触はどうしてこうもいやらしいのだろう。
コウが唇を甘噛みしたので急かされたように思ったのかもしれない。リョウタはコウの体を仰向けに倒して剥き出しの腹部に手を置いた。たったそれだけでコウは押さえつけられたように身動きを封じられてしまう。
リョウタは深いため息を吐き出し、どこか後ろめたそうな視線を寄越した。瞳の奥では自分の希望がコウの意思に反せず受け入れられることを祈っている。コウはゆっくりと瞬きをした。重たい手を這わせて、やっとリョウタの手の上に置く。するとリョウタはその手を握り、コウの頭の横まで持って来て馬乗りになった。瞳は嬉しそうにさざめいていた。
指一本動かすのも億劫なのに、懸命に舌を伸ばして絡めあった。肋骨の隙間をリョウタの指がなぞり、コウはくすぐったくて小さく笑った。面白がってそのまま本格的にくすぐろうとするのを制すると、指は脇腹を伝い、それから太腿を掌で撫ではじめた。緩慢な触り方に鳥肌立ちそうな痺れが込み上げてきた。ゆったりしたペースで撫りながら、次第に内寄りに、体の中心へ近づいてくる、しかし熱を集めるそこへはまだ触れない。焦らされていると分かるまで時間はかからなかった。
文句はない。我慢比べで先に音を上げるのはいつもリョウタの方だ。
しばらく好きに体を触らせてから、コウは立てた膝でそうっとリョウタの股間を擦った。びくんと強張ったリョウタは本当に驚いたらしい、愛らしいほどの戸惑い顔を見せた。コウは思わずニヤリと笑ったのを自覚しながら、熱く持ち上がってくるそれを更に刺激した。リョウタはすぐにこの悪戯を窘めた。どうせなら手で、と追加注文つきである。
苦戦しながら下着を脱がせ合い、コウはリョウタの屹立したものに触れた。しかし思ったより消耗しているようで、握ったは良いがのろのろ指をすべらせるのが精一杯だった。リョウタは姿勢を低くし、自分のものとコウのものを触れ合わせた。狙いを察したコウは両手で包むや否や、躊躇ない一突きに息を呑んだ。
熱の塊が引いてゆき、押し込まれる。ランダムに緩急をつけながら繰り返される。マジかよ、とコウは切れ切れに零した。行き来するたび質量が増していくのが分かる。それが自分の体内で行われるときの感触を嫌でも想起させられてたまったものではない。これだけ熱く、大きく、硬く張ったものが、と考えるほどくらくらしてきた。数分前にも散々味わっただけに鮮烈な記憶を再生して体が疼く。
滲み出す粘液が広がって滑りが良くなり、快感が増した。コウは挿抜から目を離せずにいる。く、と喉の鳴る音が聞こえた。自分ではない。ひどく欲情した目のリョウタが見ていたかと思うと、近づいてコウの胸元へ顔を埋めた。身をよじると接触箇所がずれて彼の先端が裏筋を浅く擦った。だが、触れてほしいのは既にそこではない。粘液塗れの手でリョウタの手を胸から引き剥がした。
リョウタは頷いて体をずらした。自分で指を舐めて濡らし、次に触れたのはコウの臀部の奥まったところだった。すかさず吸いつくようにひくついたそこをぐっと押し込む。ずぶずぶと根元まで沈んだ指は内部の感触を確かめる。まだ柔らかい肉壁が一つの動きも逃すまいと食いついていく。
はやく、とコウが言った。考えていることは二人とも同じはずだ。今、熱い媚肉の中で締めつけられながらいやらしく蠢くものが、指ではなく、比べものにならない質量を持ったそれだったら。もっと凶暴な、恍惚の予感に激しく昂ったそれだったら。
指を引き抜いてリョウタはコウの膝の裏へ手を入れて折り曲げ、その状態で持たせた。コウは濡れそぼった勃起も、焦れてひくひくしている窄まりもさらけ出し、熱っぽく見つめられる羞恥に堪えられず、はやく、ともう一度ねだった。リョウタは生唾を飲み、ぬらぬら光るそれを押し当てて慎重に入ってきた。
待ちわびた感触、張りつめた硬い熱が、容赦なく内側を抉じ開ける。切ない声が喉から押し出されるほどゾクゾクした。肉体の深いところが繋がるのだ。一度経験すればもう戻れない、泥濘みの悦楽。
苦しいほど喘ぎながら抱きしめあった。リョウタの体が燃えるように熱かった。その頭を手繰り寄せてキスしようとするコウが可愛くてたまらないと言わんばかりの目をしていた。気が済むまで唇を擦りつけて手を離すと、リョウタは動きだした。コウは上擦った声をかすかに漏らした。うねりに抗う硬さがまるで内壁を削るように擦れる。縋りつく手がびくついている。
激しく奥へ打ち付けられるたびに、かろうじてそれ以上の侵入を阻んでいるものが少しずつ溶けて、終には全部どろどろになってしまうのではないかと思った。大いに得意げで滂沱の期待に満ちて少しだけ心配そうな顔色で彼も同じように感じたかもしれない。ほんの僅かな羨望が複雑に滲み出ていた。
首すじを伝う汗が腹の中にまで一滴落ちてきたかのように、熱いものがじわっと広がり、中が一回りきつく感じた。コウは咄嗟に自分の手を噛んだ。直後、体を反らせて二、三度大きく痙攣した。
砂糖水に溺れたとしてもこれほど甘くはないだろう。射精を伴わない分とろりと長引く絶頂の中で噛み殺しても抑えきれない感涙に咽ぶのは、自分の体がとうにそのための器になっていたことを再確認するような感覚だった。
噛み締めた奥歯の向う側から獣じみた荒々しい唸りが漏れ聞こえた。寸前で堪え切ってしまった憐れな虎が、獲物を気遣う一心で、爪を立てたまま待っているのだった。コウが何故ぐずぐずに泣きながらふてぶてしく笑うのか、本当のところは知る由もなく。リョウタはびっしょり濡れた髪を掻き上げるように額の汗を拭った。どう紛らわそうとしても目をそらすことすらできないのに今更少しも冷めるわけがなかった。
コウは口を押さえたまま両脚でリョウタの体に抱きついた。リョウタの喉元がひくりとした。
一番奥へぐいぐい押し付けられながら、コウは一度おさまった涙がまた流れてゆくのを感じた。いっそ無理矢理とも言えそうな強さには痛みを感じてもおかしくないはずなのに、精一杯の声色で名を呼ばれて揺さぶられると、もうそんなことはどうでもよかった。荒い呼吸にリョウタのかすれ声が混じりだした。振り落とされないようにしがみつく。囁くような声しか出せなくなって最終確認を交わし、やがてリョウタはコウの中で迸った。その熱さに再び絶頂へ押し上げられるコウは、声にならない叫びをあげた。
リョウタは呼吸を落ち付けようとしながら体を起こしかけたが、コウの足が絡んだまま離さないのをちらりと見て、ふわっとした笑みを浮かべた。甘えるように、未だ痙攣が治らないコウの中へ自らの精子を擦りつけるように緩く腰を揺らした。
コウは唇を動かして何か言ったが、聞き取れる声はまだ出てこなかった。それでもリョウタを身震いさせるには十分だった。
リョウタは扇風機をベッドの脇まで持ってきて直風を浴びていた。顎の下に汗の滴が光っている。開け放った窓の外は薄暗く、ろくに街路樹もないのに彼方此方で蝉がぐわんぐわん鳴いていた。よく晴れた夕方である。コウは、リョウタがせっつくので仕方なく、エアコンへリモコンを向けて「自動」と書いてあるボタンを何度も押したが、エアコンはうんともすんとも言わなかった。
「本当に壊れたのかよ……」
「言ったろ、ここのはつかないって」
「こんなに暑いんじゃ勉強どころじゃなくねえ? 実際今日進んでないしさ」
「今日進んでないのはおまえのせいだぞ」
「それは、そっちが誘うから……」
コウが片眉を上げて物言いたげに見ると、リョウタは咳払いをして話題をそらした。
「業者は?」
「業者呼ぶほどじゃないし、もうすぐ九月になるから大丈夫だろ」
「大丈夫じゃないって。九月になったらすぐ涼しいわけじゃないし、扇風機だけじゃあ……」
リョウタが次第に心配そうになってくるので、コウは堪えきれず吹き出した。
「えっ、なんだよ」
「あのな……くっ」
「何、なに」
「ただの電池切れなんだよ」
「……は? 電池?」
コウはリモコンを手渡した。運転モードや設定温度を表示する小さな液晶画面は真っ暗だった。リョウタはボタンを押しても叩いても沈黙している手の中のリモコンと、くっくっと喉で笑っているコウを交互に見た。
「……え、買っとけよ、電池くらい」
おっしゃる通りとばかりに頷きながら、コウは氷が溶けて薄まった上にぬるくなった麦茶を飲み干した。
「買いに行こうと思ってたらおまえが来て、そんで、こうなった」
「そんなん先に言ってくれれば、来るとき買ってきてやったのに……コウはそういうの分かってて言わないよなぁ」
「悪いな」
「ま、俺は暑い中いい思いしたからいいですけど」
リョウタはのっそり起き上がると、扇風機に向かってあーっと大声を出し、我々は宇宙人だ、と懐かしい台詞を続けて言った。その横にごろんと寝転んだコウは、リョウタに手招きをしてキスをさせた。少しも悪いとは思っていなさそうなそぶりである。
「白状するとな、丁度いいからしてみたかったんだよ。ネットで見たやつ」
「何それ」
「シャワー浴びてから教えてやる」
顔にはりつく髪を掻き上げながら、コウは誘惑するように目を細めて唇に弧を描いた。
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BGM:PERFECT BLUE(Base Ball Bear)
2017/08/28